秋も深まり稲穂が黄金色に輝く頃、Mさんは夕方まで田んぼで稲刈りをしていた。
日が沈みかけた頃、あと一息だと作業していると、背後で「カサカサ」と何かが擦れるような音が聞こえてきた。
風が稲を揺らしているのだろう、と最初は気にせずにいた。
しかし作業を続けていると、その音はだんだん近くまで迫ってくるように感じる。
不安になったMさんが周囲を見渡すと、田んぼの端に白い着物を着た影がぼんやりと見えた。
誰だあれ、とMさんは少し不気味さを感じたが、気になったので近づこうと一瞬目を足元に移したあと再び見ると、着物を着た人はいなくなっていた。
気のせいだったんだろうか、とまた稲刈りを再会する。
するとまた「カサカサ」という音が聞こえ、さらに背後に冷たい視線を感じた。
恐る恐る振り返ろうとした時、視界の端で何かが動いた気がして急いで田んぼの端を見てみると、今度ははっきりと稲の間に何かが立っているよう見えるが、稲の影に溶け込んで見えづらい。
怖くなったMさんは、まだ稲刈りが残っているが急いで作業を終えて家に帰った。
その道すがらも、背後から音がついてくる。
何度も振り返るが人影どころか何も見つからない。
家に帰りついてもしばらく庭で音がしていた。
実はMさん、稲刈り中に供え物として田んぼの片隅に置かれていた小さな稲束を誤って踏みつけてしまったそうで、それが原因だったのかもしれないと言っていた。
勿論その事に気づいたあと、急いでその場所に刈り取った稲をお供えしてきたそうだ。