長距離トラック運転手のYさんは、全国各地を走り回る毎日を送っていた。
彼の仕事は、深夜の高速道路をひたすら走り続けること。
特にある山中の長いトンネルは、毎日のように通過する、もはや見慣れた景色となっていた。
その日は前日の寝不足がたたって、特に眠気が強かった。
眠気を覚ますためのラジオも、いつの間にか切れてしまっている。
静まり返ったトラックの車内には、エンジンの低い唸り声だけが響いていた。
長いトンネルの中ほどにさしかかった時だった。
ヘッドライトが照らす前方の空間に、突然、赤いジャージ姿の人影がぼんやりと浮かび上がった。
Yさんの心臓が大きく跳ね上がる。
まさかこんな時間にこんな場所で、人が立っているはずがない。
しかし、その人影は確かにYさんのトラックの進行方向に立っていたのだ。
Yさんはとっさに急ブレーキを踏んだ。
キュルキュルとタイヤが、アスファルトを擦る甲高い音がトンネル内に響き渡る。
体はシートベルトに強く打ち付けられ、心臓が口から飛び出しそうなほど脈打った。
衝突する覚悟を決めたが、何もぶつかった感覚はなかった。
急ブレーキで停止したトラックの窓から外を見ると、そこには誰の姿もない。
Yさんは恐る恐るトラックを降り、ボンネットを確認した。
そこには濡れたように手のひらのような跡が四つ、くっきりと浮かび上がっていた。
まるで何かがボンネットに強く押し付けられたかのような生々しい跡だ。
Yさんの全身に悪寒が走る。
何が起こったのか、全く理解できなかった。
しかし、そこに確かに触れた何かの存在を、Yさんの肌が粟立つのを感じた。
そのトンネルには、昔から奇妙な噂があった。
地元の中学生たちが深夜に肝試しと称してこのトンネルに入り、そのまま行方不明になったという話が、古くから語り継がれているのだ。
当時の捜索では何も見つからず、まるで神隠しに遭ったかのように、彼らの存在は消え去ったという。
その話をYさんも耳にしたことはあったが、まさか自分がそんな体験をするとは夢にも思わなかった。
Yさんは震える手でボンネットの跡を拭い、再びトラックに乗り込んだ。
あの日の夜、自分が見たもの、そしてボンネットに浮かび上がったあの手の跡が、何かのメッセージだったのではないかと、Yさんは今でも夜が来るたびに、その恐怖に怯えているのだ。