地方に住むKさんが中学生の頃に体験した話。
その地域にある古いお寺は、鬱蒼とした林の中にひっそりと佇んでいた。
昼間でも薄暗く、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。
お寺のすぐ隣には広い墓地が広がっており、夕暮れ時になると、ひんやりとした空気が漂ってくる場所だった。
ある日の夜、Kさんを含む仲の良い友人たち数名で、肝試しをしようという話になった。
怖いもの見たさという年頃特有の好奇心からだった。
目的地は、いつも気になっていたお寺の墓地。
特に墓地の奥にある、いくつかの無縁仏が祀られた小さな祠のあたりは、なんとなく不気味な気配がすると噂されていた。
夜の11時を過ぎ、Kさんたちは懐中電灯を手に、おそるおそる家を出発した。
夜の林道は昼間とは全く違う顔を見せ、木々のざわめきや、聞いたことのない虫の声が不安を煽った。
お寺の境内に足を踏み入れると、昼間の賑やかさは嘘のように静まり返り、月明かりだけが頼りだった。
目的の墓地に到着すると、ひんやりとした空気が肌を刺した。
無数の墓石が暗闇の中にぼんやりと浮かび上がり、異様な雰囲気を醸し出している。
Kさんたちは息を潜め、懐中電灯で足元を照らしながら、ゆっくりと墓地の中を進んで行くが、少しの物音にもビクビクしてしまう。
やがて目的の墓地の奥にたどり着いた。
そこには風雨に晒された小さな祠があり、いくつかの誰の供養も受けない無縁仏が置かれている。
一行は固唾を飲みながら、懐中電灯をその祠に向けた。
その時だった。
祠の陰に、何かがいるような気配がした。
Kさんが懐中電灯の光をकेंद्रितさせた瞬間、そこに信じられないものが一瞬だけ見えた。
長い黒髪が風に揺らめき、月明かりに照らされた肌は不健康なまでに青白く見えた。
身につけているのは、白く、しかしどこか薄汚れたような着物だった。
顔は影になっていてはっきりとは見えなかったが、確かにそれはそこにいた。
「うわあああああっ!」
誰かの悲鳴を合図に、Kさんたちは我を忘れて叫び声をあげた。
持っていた懐中電灯を投げ出しそうになりながら、来た道を猛ダッシュで引き返す。
転びそうになりながらも、ただひたすらKさんの家を目指して走り続けた。
息を切らしながらKさんの家に辿り着くと、玄関に飛び込み、鍵を閉めて安堵のため息をついた。
しかし、恐怖はそう簡単に消えるものではなかった。
皆で顔を見合わせ、今見たものが一体何だったのかを話し合ったが、結局誰も答えを見つけられなかった。
怖さを紛らわすため、Kさんたちは部屋で朝までゲームをして過ごした。
眠気よりも恐怖が勝り、誰も寝ようとはしなかった。
夜が明けようやく外が明るくなると、ほんの少しだけ安心感が戻ってきたが、昨夜の出来事は忘れられない記憶となった。