この話は、とある山間にある、通称「幽霊坂」と呼ばれる寂れた坂道での事。
古くからこの坂道では、雨上がりの夜に見知らぬ女性の姿を見たという噂が絶えない。
6月も終わりに差し掛かった頃、連日の長雨がようやく落ち着きを見せた夜のこと。
地元に住むKさんは、仕事帰りにその幽霊坂を通ることにした。
「はぁ~、こんな日に限って通行止めとは」
Kさんは、普段は幽霊坂を避けて遠回りをしていた。
しかし、その日は激しい雷雨の影響で、いつもの道が通行止めになっていた。
「まあ幽霊話なんてただの迷信だろ」
Kさんは自分に言い聞かせるように呟きながら幽霊坂へと足を踏み入れた。
坂道に差し掛かると、周囲は木々に囲まれ街灯の光も届かない。
スマートフォンでライトを点けて歩いていると、突然空気が冷たくなった。
寒さに驚いていると、Kさんの耳に虫の鳴き声とも機械音ともつかない「ジィーーーッ」というノイズのような奇妙な音が聞こえてきた。
(なんだ?何の音だ?)
Kさんは少しだけ歩調を遅めて辺りを見回した。
しかしKさんの視界に映るのは、鬱蒼と生い茂る木々とアスファルトにできた水たまりだけ。
人気のない静寂の世界。
Kさんは言い知れぬ不安を感じながらも幽霊坂を登り続けていると、後ろから足音が聞こえてきた。
(あれ?さっきまで足音なんて聞こえなかったのに)
突然し始めた足音に恐怖を感じ、Kさんはゆっくりと息を呑んで後ろを振り返った。
そこには白いワンピースを着た長い黒髪の女性がいた。
坂の名前が名前なだけに、Kさんは(まさ幽霊!?)と驚いて固まっていると、さっきから聞こえている「ジィーーーッ」というノイズ音がさらに強くなる。
Kさんは逃げる事も出来ずその女性を見つめていると、突然「ゴロゴロゴロ」と雷のような音が鳴り出し、辺りが一瞬真昼のように明るくなった。
Kさんはその光に驚いて思わず目を閉じた。
ほんの一瞬の出来事だったのだが、気がつくと辺りが静まり返っている。
Kさんが恐る恐る目を開けてみると、先程までそこにいたはずの白いワンピースの女性がいない。
「え?い、いなくなった?」
Kさんは何が起きたのか理解出来ず、辺りを見回してみたが何もいない。
怖くなったKさんは、登り坂を走って自宅に帰ったそうだ。