とある都市部の下町での話。
狭い路地裏が多く残るその町で、夜な夜な奇妙な噂が流れ始めた。
「おい、聞いたか?あの路地裏の街灯の下にある水たまりで、奇妙な顔を見たってやつがいたらしいぜ…」
噂の発端は、仕事帰りのサラリーマンだった。
彼はいつものように薄暗い路地裏を歩いて帰宅していた。
雨が降った後で、路地裏にはいくつもの水たまりができていた。
その日はたまたま満月だったので、普段は月明かりも届かない路地裏だったが、その日は街灯の明かりと相まってぼんやりと辺りが照らされていた。
男は足元に気をつけながら、何気なく街灯の下にある水たまりに目をやった。
すると…。
(なんだ?)
水たまりにぼんやりとした人影が映っている。
しかし、それは自分のものではなかった。
顔色が悪く、やつれた男の顔。まるでこの世のものとは思えないような、異様な雰囲気を漂わせていた。
ギョッとしたサラリーマンは思わず顔を上げた。
しかし、辺りを見回しても誰もいない。人気のない静かな路地裏には、彼一人しかいないのだ。
(気のせい…だよな?)
男はそう自分に言い聞かせ、再び歩き始めようとした。
しかし、どうしても気になってもう一度水たまりに視線を落とした。
ゾッ…。
水たまりの男と目が合った。
さっきまでうつろだった目は、街灯の明かりを不気味に反射し、口元がまるで彼を嘲笑うかのように、ニヤリと歪んでいたのだ。
「うわあああああああっ!!」
男は恐怖に駆られ、一目散に逃げ出した。
それ以来、男は夜道を歩くのが怖くなり、あの路地裏に近づくことは二度となかったそうだ。