怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

最後に話しかけたのは誰?

会社員のSさんは、夜遅くにかかってきた電話を終えたばかりだった。

スマートフォンの画面に目をやると、通話履歴には「非通知」の文字が並んでいる。

Sさんは首を傾げた。

通話中、確かに画面には友人のKさんの名前が表示されていたはずだ。

会話の内容も、先日Kさんと話していたのと同じ、週末の予定についての話だった。

たわいもない会話を交わし、SさんはKさんと楽しい週末を過ごせることに胸を躍らせていた。

 

翌日、SさんはKさんに会った時に昨夜の電話のことを尋ねた。

「昨日の夜23時くらいかな、電話してきてくれたでしょ?週末のことなんだけどさ」

Kさんはきょとんとした顔でSさんを見た。

「え?私、昨日その時間はもう寝てたよ。誰とも喋ってないけど」

Sさんの背中にひやりとしたものが走る。

Kさんの言葉に嘘偽りはないように見えた。

では昨夜、あの電話でSさんと話していたのは、一体誰だったのだろうか。

Kさんの声で、Kさんとしか知りえない内容を話していた何かが、Sさんの心に深い影を落とした。

 

その日以来、Sさんのスマートフォンには、定期的に非通知の着信がかかってくるようになった。

電話に出ると、受話器の向こうからはいつもKさんの声が聞こえてくる。

しかしその声はどこか冷たく、そしてどこか遠い。

会話の内容は、本当にKさんと話しているような日常の些細なことばかり。

しかし、Sさんはもう、その声の主がKさんではないことを知っている。

 

何度か電話を無視してみたこともあったが、不思議なことに留守電には何も残されていない。

ただ、無音の時間が記録されているだけだった。

Sさんはその奇妙な電話に怯えながらも、どうすることもできなかった。

電話を切っても、またしばらくするとかかってくる。

電話に出れば聞き慣れた友人の声で、日常の会話が始まる。

それはまるで、Sさんの生活に何かが入り込もうとしているかのようだった。

 

Sさんはその非通知の電話のたびに、じわじわと精神がすり減っていくのを感じていた。

次に電話がかかってきた時、受話器の向こうのKさんは、一体何を話すのだろうか。

そしてその会話の先に、何が待ち受けているのだろうか。

Sさんは、もうその電話に出るのが怖くてたまらなかった。

しかし出なければ何が起こるのか、それもまた想像するだけで身震いするのだった。