この話は地元の古い神社にまつわる奇妙な噂だ。
その神社は、山奥の細い道を30分以上歩いた先にひっそりと佇んでいる。
今では誰も参拝しなくなり、鳥居も苔むし社殿も傾いているという。
けれどそこには不気味な言い伝えが残っている。
「使われていないはずの灯籠が、ある夜だけぽつんと点くことがある」
地元の人々の間では「灯籠が点灯した夜は何か良くないことが起こる」と語り継がれていた。
Kさんがその話を初めて聞いたのは、小学生の頃だった。
友人の祖父から聞かされた話だ。
「昔、あの神社の灯籠が光ってたのを見た男がいたんだ。家に帰ったら飼ってた牛が死んでたってな。
あの光は、良くない知らせを運んでくるんだよ」
当時は子ども心に怖かったが、大人になった今では迷信だと信じていなかった。
ところがKさんが大学生になったある夏、地元の友人たちと肝試しにその神社へ行くことになった。
夜の9時過ぎ、懐中電灯を頼りに山道を歩き、誰もいない神社へたどり着いた。
草が生い茂る境内は無音の中に沈み、風の音すら聞こえない。
友人の一人が「灯籠、点いてないじゃん」と笑ったその時だった。
ふっと灯籠の中に明かりが灯ったのだ。
まるで誰かが火を入れたかのように、ぼんやりと黄色い光が揺れている。
「誰かいるのか?」
慌てて周りを見回したが木々の間には誰もいない。
Kさんたちは背筋が冷たくなるのを感じながら、足早に神社を後にした。
その翌日、Kさんの友人の一人が事故に遭った。
幸い命に別状はなかったが、友人は「点灯した灯籠を見たからだ」と本気で怯えていた。
その後、Kさんは地元を離れたが、あの灯籠の話を聞くたびに背筋が寒くなるという。
灯籠が点灯する理由も、それが本当に不吉な知らせなのかも分からない。
ただ、今も誰かがその神社へ行けばあの灯籠の光がふっと現れるかもしれない。