オフィスビルの警備員をしている、Nさんから聞いた話。
Nさんは都心にある20階建てのオフィスビルで、夜間警備の仕事をしている。
警備員は三人一組の交代制で、ビル内を巡回しつつ、監視カメラをチェックするのが主な仕事。
そのビルで不可解なことが起こるようになったのは、ある改装工事のあとだった。
毎晩深夜1時になると、誰もいないはずのエレベーターが勝手に動き、最上階の20のボタンを点灯させて上昇するのだ。
呼び出した人もいないし、該当フロアには入居者もいない。
最上階は現在空きテナントになっており、工事業者すら日中しか来ていない。
管理会社に報告したが「センサーの誤作動かもしれない」との返事だけだった。
そんなある晩、若い警備員のKさんが言った。
「俺、その時間帯にエレベーター乗ってみますよ」
Nさんともう一人の同僚Rさんは止めようとしたが、Kさんは笑って言った。
「大丈夫っすよ。何か出たら動画でも撮ってきます」
そう言って時間近くになるとエレベーターに向かっていった。
しばらくするとエレベーターに乗り込むKさんが映った。
深夜1時ちょうど、エレベーターのランプが20を点灯した。
Nさんたちは警備室で監視カメラを注視する。
だがエレベーターが動き出した瞬間、映像が一瞬だけ、ザザザっとノイズにまみれた。
そのあと画面に映るKさんは、両腕を擦りながら身を縮こまらせている。
まるで冷凍庫にでも入ったかのような仕草だった。
やがてKさんの口から、真夏だというのに白い息が漏れていた。
「寒いのか?」
「真夏なのにか?」
二人が不思議がりながら見ていると、やがてエレベーターが20階に到着し、ドアが開いた。
するとドアの外に何かが立っていたような気がした。
その直後、Kさんがものすごい勢いで飛び出して行く。
その後、数分してKさんは警備室へ駆け戻ってきた。
「すっごい寒かったです、マジです!空調機壊れてるんじゃないですかね?」
「エレベーター出る時、誰かいた?」
と尋ねると、Kさんは首を振った。
「え?いや、誰もいなかったんですけど、変なんすよ、あの階。
やけに冷えきってる感じで…あとなんか…音がしたんですよ」
「音?」
「エレベーターから出た時、べたっべたって足音がしました。
振り返って確認したんですけど誰もいませんでした」
この事は上司に報告しても
「幽霊が出るなんて書くわけにはいかないだろう」
と言われ、エレベーターの不具合という事で報告された。
今でも深夜1時になると、エレベーターは最上階へと昇っていく事があるそうだ。