これは私の友人である、大学生のYさんから聞いた話。
Yさんは昔から好奇心旺盛で、よく友達と心霊スポットや廃墟巡りをしていた。
ある夏の日、Yさんは地元の友人と二人で、とある山奥にあるという噂の「山の中の校舎」へ向かった。
その山道は鬱蒼とした木々に覆われ、昼間でも薄暗く、空気が重く感じられた。
舗装されていない道は途中で途切れていて、さらに奥へと続く細い獣道を進むしかなかった。
道の両脇には、人の背丈ほどもある雑草が生い茂り、まるで道を塞ぐようにYさんたちの行く手を阻んだ。
どれくらい歩いたのか、時間も感覚も麻痺してきた頃、木々の隙間から古びた木造の建物が見えてきた。
「なんだあれ」
Yさんがつぶやくと、友人も同じように息を飲んだ。
そこにあったのは廃校ではない、まるで今も現役のように整った古い木造校舎だった。
窓ガラスは一枚も割れておらず、玄関には新しい下駄箱が並び、手入れの行き届いた庭には、色とりどりの花が咲いている。
しかし人の気配は全くない。
Yさんたちは好奇心を抑えきれず、校門をくぐった。
その瞬間、頭上の空が深い青色に変わり、世界から全ての音が消え失せた。
セミの声も鳥のさえずりも、風が木々を揺らす音も何もかも。
まるで分厚いガラスのドームの中に閉じ込められたような、そんな静寂が彼らを包み込んだ。
校舎の中に入ると廊下には埃一つなく、磨かれた床が薄暗い光を反射していた。
Yさんたちは一番近くの教室を覗いた。
そこには生徒たちが机に座っていたのだが、全員がうつむいていて誰も動かない。
まるで時間が止まっているかのようた。
Yさんの友人が恐る恐る一人の生徒に近づき、顔を覗き込もうとしたその時。
うつむいていた生徒の一人が、ゆっくりと顔を上げこちらを見た。
その顔には目も口もなかった。
ただの平らな皮膚。
のっぺりとした真っ白な顔が、Yさんたちをじっと見つめていた。
びっくりしたYさんたちは慌てて校舎を飛び出し、来た道を戻る。
どれほどの時間が経ったのか、足は棒のようになり、意識も朦朧としてきた頃、ようやくYさんたちは見慣れた風景に戻ってきた。
そして疲れ果てて座り込んだYさんの足元に、一枚の「古い集合写真」が落ちていた。
それはYさんたちが迷い込んだ校舎が写った、古びた写真のようだ。
写真の中の校舎は古く、さっき見た校舎とは思えない見た目だった。。
そして、校舎の前に並んで写っている生徒たちの顔は、全員がのっぺりとした、真っ白な顔をしていた。