怖い話と怪談の処

ブログ名の最後の文字は(ところ)と読みます。怖い話や不思議な話が大好きな方、是非ご堪能下さい。記事への★ありがとうございます。

三畳半の奥にある部屋

Mさんが借りたアパートは、築年数の古い平凡な建物だった。

間取りは「1K」と説明され、三畳半の小さな部屋と台所がついているだけの、ごく普通の一間。

家賃も安く、駅からも近いことから即決した。

 

ところが、引っ越し当日に荷物を運び込んだとき、Mさんは奇妙なことに気づいた。

三畳半の奥に、壁と同じ模様の壁紙があり、その壁紙をなぞってみるとドアがある事に気がついた。

もう一度綺麗に貼ればいいと思い、綺麗に剥がす。

案の定ドアがあった。ドア開けてみるともう一部屋ある。

畳二枚分ほどの狭い空間で、窓もなく薄暗い。

契約書の間取り図にはその部屋は載っていなかった。

不審に思い管理会社へ問い合わせた。

「部屋の奥にもう一室あるんですが…」電話口の担当者は困惑したように答えた。

「図面上、そんな部屋は存在しません。お客様のお部屋は1Kです」

何度確認しても同じ答えしか返ってこない。

 

その夜、Mさんは奥の部屋を閉め切り、気にしないことにした。

だが深夜になると、畳を擦るような音が聞こえてくる。

まるで誰かがその狭い空間を歩き回っているようだった。

襖を開ける勇気はなく、布団に潜り込んで朝を待った。

 

数日後、ついに我慢できなくなり、懐中電灯を手に奥の部屋へ足を踏み入れた。

その瞬間、背筋が凍った。

部屋の広さが明らかに変わっていたのだ。

前に見たときは畳二枚ほどだったのに、奥へ奥へと伸びており、三畳半を越える広さになっている。

しかも畳の色が手前と奥で違い、時代の異なる部屋が継ぎ接ぎのように繋がっていた。

立ちすくむMさんの耳に足音が響いた。

自分の後ろからではなく、部屋のさらに奥から近づいてくる気配。

慌ててドアを閉め、鍵がないのでまだ荷物も閉まっていない机を置いた。

足音はドアの手前で止まり、やがてしんと静まり返った。

 

翌朝、Mさんは半ば夢だと思ったのだが、実際にドアがある。

後日、ドアを隠すため、大きめの組み立て式の本棚を購入しそこに置いたそうだ。

夜中にたまに足音が聞こえるが、引っ越すお金もないため今もまだ使っているという。