夏の夜、Hさんは友人たちと花火大会を楽しんでいた。
大きな花火が夜空を彩り、屋台の明かりが人々の顔を照らす。
しかしちょっと目を離した隙に、Hさんは人混みに紛れ、友人たちとはぐれてしまった。
「あれ?どこに行ったんだろう」
スマホを取り出して連絡を取ろうとするが、なぜか圏外になっている。
仕方なく辺りを見回しながら歩いていると、暗い路地が目に入った。
そこだけまるで、花火大会の光や音が届いていないようだった。
人混みを避ける近道かもしれないと思い、Hさんは路地へ足を踏み入れた。
しかし少し歩いたところで違和感に気づく。
――静かすぎる。
周囲の喧騒がまるでどこかで遮られているかのように、一切聞こえないのだ。
慌てて引き返そうとした瞬間、背後に気配を感じた。
ゆっくりと振り向く。
そこには古びた浴衣を着た子供たちが立っていた。
皆無表情で顔には傷んだお面をつけている。
狐、ひょっとこ、般若…どれも古びてひび割れている。
Hさんは息をのんだ。
子供たちは何も言わず、ただじっとこちらを見つめている。
まるで何かを待っているかのように。
強烈な恐怖に襲われ、Hさんは全力で駆け出した。
足がもつれそうになりながらも来た道を戻る。
しかしいつの間にか路地はさらに暗く、奥へ奥へと続いているように見えた。
このままじゃ戻れなくなる――
必死に走ったその瞬間、目の前が急に開けた。
気づけば明るい祭りの屋台の前に立っていた。
耳に飛び込んでくる花火の音と、賑やかな人々の声。
「H、どこ行ってたんだよ!」
友人の声に振り向くと、いつの間にか周囲は元の光景に戻っていた。
安堵の息をつきながら、Hさんは先ほどの路地を振り返る。
だが、そこには路地など最初から存在しなかった。